SS徒然未分類リネ日記
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2007.04.13 Fri
 元治元年(1864年)

 人の寝静まった深夜。
 京の大路にすら人影も見えない刻限。そんな時刻に一つの提灯が都小路に揺れていた。
 提灯に照らし出された人影は三つ。先頭で提灯を下げつつ進む、あきらかに下男とわかる男、最後尾を付き従う護衛らしき若い男、そして、真ん中を行く身なりの良い初老の男であった。
 少しばかり酒が入っているのか、初老の男は少々顔に赤味が差している。深夜であり、また近頃は物騒なこともあるので、下男と護衛の男は歩みを急がせようとしているのだが、思うようにいっていないらしい。
 危なっかしい足取りで歩く初老の男を、なんとか真っ直ぐ誘導する下男。護衛の男は少しばかり呆れた表情を見せていたが、それでも己の職務を果たすべく、あたりを注意しながら付き従っていた。

 そして、三人は塀の築地を曲がった。
 目の前に人影が居た。

 月明かりに薄っすらと見える姿は、紋付に仙台平袴といった一般的な武士のそれであった。この状況である、たちまち護衛は前に進み出た。

「……彦根藩、中川殿とお見受けいたす」

 人影はそう問うてきた。初老の男のことである。
 護衛は帯刀に手をかけた────のであったが、手をかけた瞬間、いつのまにか間合いを詰めて来ていた人影の抜打ちにより絶命した。
 感情のない氷のような双瞳が初老の男を見つめる。そして、真新しい鮮血が滴る刃を振り上げた。

「私怨はないが…………死んでもらう」












 踏み固められて枯れた地面が線のように走っている。人はそれを道と呼んでいた。本来人が往来するものであるが、現在それはない。
 だから、その道の真ん中に一人の男が大の字に寝そべっていたとしても、まったく問題にはならなかった。
 男──というにはまだ幼い容貌を残してはいるが、とにかくこの男、一見して金がないのが分かる。旅汚れた着物、ボロボロの袴、髪などいつ結ったのか分からないくらいにボサボサだった。

 男は体をべたりと地面に横たえて、青空に雲が悠々と流れていく様を真上に眺めている。喧しいくらいに鳴り響く蝉の声。その蝉の声に唱和するようにして男の腹がなった。

「……腹減った」

 故郷を飛び出してから、早三ヶ月になる。出かけの際に友人がくれた餞別も既に尽きた。金がなければ食い物も得ることが出来ない。分かってはいたが、なんとも世知辛い世の中だった。

 あらためて、これからどうしようかと茫然と考えながら、またしても男は空を眺めていたのであったが、その空が突然真っ暗になった。

──むぎゅっ──

 なんとも良い音を立てて、なにかが男の顔を踏みつけていく。
 慌てて立ち上がると、今しがた自分の顔を踏んでいったものを確認した。
 男である。年のころは30歳前後。着流しを洒落た格好で着付けていた。

「貴様、武士の顔を足げにするとは何事かっ!」
「……ん?なんか妙な感触だったと思ったが、ありゃ人の顔だったか」

 着流しの男は『なるほど人の顔を踏むとこういう感触か』などと、妙なことに感心している。どこまでも人を喰ったような態度に見えたし、またどこまでも本気で感心しているようにも見えた。

「ゆ、ゆるさん!」

 踏まれた方は怒り心頭である。今にも腰にある太刀をすっぱ抜かんという気迫で、腰に帯びた、みすぼらしい格好の中こればかりは値が張ると思われる、精緻な象眼が施された刀の柄に手をかけた。

「まぁ待て、確かに踏んだのは悪かった。このとおり謝ろう」

 男は言葉のとおりペコリと頭を下げた。だが、続きがある。

「……が、んなとこに寝ていたお前も悪いだろ」

 言われて見ればそうかもしれない。ただ、言い訳をするならば、何かが近づいてくれば直ぐ分かる自信があったのでそうしていたのだが……空腹のせいだろうか、まったく気づかなかったのだ。

「つかお前、貧乏そうだな」

 着流しの男は、そういってしげしげと踏まれ男を眺めた。

「うるさい!余計なお世話だ。もういいからあっち行け」

 踏まれ男は意地になったのか、またしても道の真ん中で寝そべった。
 興味をもったのか、着流しがたずねた。

「ところで、お前なにしてんだ?」

──ぐうぅぅぅぅぅ──

 盛大に腹が鳴る。

「!?────わははははは!!……そうか!お前、腹へって動けなかったのか!?」
「ち、ちがう!!」

 慌てて弁明した踏まれ男だったが、

──ぐうぅぅぅぅぎゅるるぅぅうぅ──

 と、胃袋は先ほどよりも盛大に不満をぶちまけてくれた。
 着流しはツボに入ったのか、しばらく笑いこけた。その間中、踏まれ男はむっつりした表情のままだった。

「────ひっひぃ……あ~笑った笑った。こんなに笑ったのは久々かもな」
「……それはよかったな」

 ようやく笑いを収めた着流し。それに対して踏まれ男は半眼で睨みつける。だが、着流しはそんな視線などまったく無視して、こう言った。

「飯食わせてやる。踏んだ詫びと笑わせてくれた礼だ」

 そういって着流しはカラッと笑った。踏まれ男は『笑わせてくれた礼』とやらには納得しかねるものがあったが、『踏んだ侘び』そしてなによりも飯の誘惑には勝てなかったらしい。不承不承という姿勢は崩さないが、誘いに乗ったという様に立ち上がろうとした。

「そういえば名前聞いてないな」

 着流しは、踏まれが起きるのに手を貸しながら聞いた。

「犬飼……犬飼ポチ」
「──ポチってお前……本名か?」

 踏まれ男──犬飼ポチ──は頷く。これにまたしても着流しは笑った。

「おい、人の名で笑うのは流石に無礼だろう……」

 犬飼の言葉に少し険が差す、その様を見て着流しは素直に謝った。

「だがな、さすがに『ポチ』ってのは、今後も俺と同様な反応をされるぞ?」

 着流しは説明した。『ポチ』というのは、一般に犬につける名前であり、それを告げられた方は、どうしても『犬の名前』という連想を思い浮かべさせられる。だから笑いを誘われてもしかたがないと。

「ま、お前がいいなら構わないといえば構わないんだが、いちいち笑われて面倒くさい思いをしたくないなら偽名とか使ったらどうだ?」
「う~~ん、あんたの言うことも一理あるな」

 たしかに、里を出てから多くはないが、自らの名前を名乗った際、皆が何かを含んだような顔をしていたことを犬飼は思い出した。

「……と!そういえば、まだあんたの名前を聞いてないぞ」
「ん?俺か?」

 頷く犬飼。人に名乗らせておいて自分が名乗らないとは何事だ、と説教をくれる。

「わーったわーった、別に名乗らないとは言ってねえだろ」

 手を振りながら答える着流し、そしておもむろに名乗った。

「俺は高杉晋作っていうもんだ」


文久三年。夏これからという季節だった。








後書きのようなもの

幕末を舞台にした、GS美神中のサブキャラ「犬飼ポチ」の青春物語です。
さてさて、上手いこと書けるやら;

超絶不定期更新物となるかと思われます。
幕末って大好きなんですけど、それゆえに中々筆が重くなる。
なのでここでの公開にしときました。

人狼の成長速度(年齢)について。
 まったくの捏造です。ま、長寿っぽいですから、犬飼なんか幕末のころに生きてても不思議じゃないのかな~
 と思ってこの話を立ち上げています。
 人の10倍くらいと適当に見積もって、犬飼は劇中では20前後?くらいに設定します。
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